「マンモグラフィは痛いと聞くので、なかなか乳がん検診を受ける気になれない」
「検査時の痛みを和らげる方法や、そもそも痛みを感じない検査方法はないのか」
上記のような不安や疑問をかかえていないでしょうか。
乳がんは日本人女性のがん罹患率第1位であるにもかかわらず、検査時の痛みや胸の露出による恥ずかしさなどにより、検査を控える方が多いことが問題視されてます。
乳がんは、早期に見つかった場合は90%以上が治るといわれていわれているため(※1)、定期的に検査を受けることが重要です。
そこで本記事では、乳がん検診におけるマンモグラフィの痛みについてや、痛みを軽減する方法、エコーやMRIなどの痛くない乳がん検査についてもあわせて解説します。
乳がんとはどのような病気?
乳がんは、日本人女性がもっとも罹患しやすいがんです。
初期段階では自覚症状があらわれにくいですが、進行するとともに乳房のしこりや、乳頭から血が混じったような分泌物などがみられることがあります。
乳がんの発生には、食生活の欧米化や遺伝、現代女性のライフスタイルの変化などが関連しているといわれています。
乳がんは乳腺に発生する悪性腫瘍
乳がんは、乳腺に発生する悪性腫瘍で、母乳をつくり出す「小葉」と呼ばれる組織や、母乳の通り道である「乳管」から生じるものです。
がん細胞が小葉や乳管のなかでとどまるものは「非浸潤がん」、がん細胞が乳管や小葉の外に出て周囲の組織まで広がったものは「浸潤がん」です。
「浸潤がん」に進行している場合、リンパ節や遠隔臓器に転移する可能性があります。
日本人女性のがん罹患率第1位
日本人女性のがん罹患率の第1位は乳がんであり、2019年のデータでは、生涯に乳がんを患う女性は9人に1人と推定されています(※2)。
それにもかかわらず、日本における乳がん検診の受診率の低さが問題視されており、40~69歳の受診率は40%台です(※3)。
検診の受診率の低さには、検査時の痛みや恥ずかしさなどが大きく関連していると考えられます。
乳がん検診のマンモグラフィとは?
マンモグラフィとは、専用のX線装置で左右の乳房を片方ずつ挟んで圧迫し、X線写真を撮影する検査です。
主に40代以降の方に推奨されている検査で、乳がんの前段階である石灰化や、硬くて小さな腫瘍の発見に適しています(※4)。
乳房に石灰化が見られる理由は、乳房がカルシウムを多く含む母乳をつくり出す臓器であるためです。
そのため、乳房中へのカルシウムの沈着により、微小な石灰化が生じると考えられます。
ここでは、マンモグラフィの特徴や費用の相場について解説します。
厚生労働省が定める乳がん検診に採用されている
複数ある乳がん検診の検査方法のなかでも、厚生労働省により有効性が科学的に証明されているのは、マンモグラフィ(乳房X線検査)のみです(※5)。
そのため、市町村や自治体がおこなう乳がん検診でも、主にマンモグラフィを実施します。
乳房を挟んでX線撮影する
マンモグラフィでは、乳房を板で挟んで圧迫してX線撮影をおこなうため、痛みを伴う場合があります。
マンモグラフィでは、撮影時に乳房組織の重なりを減らして病変を見つけやすくするために、乳房を挟んでうすく伸ばす必要があります。
また、乳房を薄くすれば、検査時の放射線被ばくのリスクを低下させることにもつながるでしょう。
マンモグラフィによる被ばく量
X線を使用するマンモグラフィでよく心配されるものに、放射線被ばくによる影響があげられます。
ただし、1回の検査で健康被害が出るような放射線量ではないので、過度な心配は必要ないでしょう。
私たち人間は、生きているだけで年間2.4mSv(ミリシーベルト)の「自然放射線」を浴びているといわれています。
一方、一回のマンモグラフィで乳房が受ける放射線の量は0.05mSvであり、一般の方が一年間に受ける自然放射線量の50分の1程度です。
そのため、マンモグラフィによるからだへの影響はほぼないと考えてよいでしょう(※6)。
マンモグラフィの費用
マンモグラフィにかかる一般的な費用は5,000円ほどです(※7)。
乳がんを自治体がおこなう住民検診で受ける場合、自己負担額は自治体ごとに異なりますが、多くの場合は無料~数千円で受けられます※8。
職場の健康診断における乳がん検診においても、会社からの補助が出ることが多いため、一般的に無料~数千円で受けられるでしょう※9 。
乳がん検診(マンモグラフィ)は痛い?
マンモグラフィでは乳房を板で挟んで圧迫する必要があるため、個人差はあるものの、痛みを感じる方もいます。
検査時に感じる痛みは、乳房組織のなかでも「乳腺」が圧迫されることで感じるものです。
乳がん検診(マンモグラフィ)で痛いと感じる方の特徴
マンモグラフィを受ける際に痛みを感じやすい方には、次のような特徴があります。
- 高濃度乳房の方
- 乳房が小さくハリがある方
- 生理前や生理中の方
- 20代・30代の方
それぞれの特徴をもつ方が痛みを感じやすい理由について、詳しく解説します。
高濃度乳房の方
高濃度乳房(デンスブレスト)とは、乳腺組織の割合が多い乳房のことです。
マンモグラフィで撮影する際には、乳腺組織や腫瘤、石灰化部分は白く写り、脂肪は黒く写る特徴があります。
高濃度乳房の場合は、乳腺組織が多いことで全体的に白っぽく写ることから、病変部分が隠れて発見が難しくなる傾向にあります。
乳房が小さくハリがある方
乳房が小さくてハリがある方は、検査での圧迫時に痛みを感じやすい場合があります。
ただし、痛みの感じやすさに大きく関連するのは、胸の大きさよりも乳腺が発達しているかどうかです。
そのため、胸が大きくても痛みを感じやすい方もいます。
また、「胸が小さいとマンモグラフィを受けられないのではないか」と心配する方がいらっしゃいますが、マンモグラフィは男性でもできる検査であり、基本的に心配ありません。
生理前や生理中の方
生理前から生理中の場合、女性ホルモンの影響により乳房が張ることで、圧迫時に痛みを感じやすくなる傾向があります。
痛みを少しでも少なくしたい方は、生理前や生理中を避けて検査の予定を入れることをおすすめします。
20代・30代の方
20代・30代の方は乳腺の発達が活発で密度が濃いため、検査時の圧迫による痛みが強くなる傾向があります。
20代・30代の若い方にはマンモグラフィではなく、乳房を圧迫する必要がない「乳腺超音波(エコー)検査」をすすめられる場合もあるでしょう。
乳腺超音波検査の詳細については後述するため、マンモグラフィ以外の乳がん検診の方法について知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
乳がん検診(マンモグラフィ)の痛みを軽減する方法
マンモグラフィの検査中の痛みを完全になくすことはできませんが、痛みを軽減する方法はあります。
- 事前に検査技師に相談する
- 生理前の検診を避ける
- 撮影時に身体の力を抜く
- 検診時にまっすぐ立つ
それぞれの方法について、詳しく紹介します。
事前に検査技師に相談する
乳房に痛む部分があったり、ケガをしていたりするなどの問題がある場合は、遠慮せずに事前に検査技師に相談してみてください。
なるべく痛みが少なくなるように、乳房の挟み方や圧力などを調節してもらえるでしょう。
生理前の検診を避ける
前述したとおり、生理前は女性ホルモンの影響で乳腺が発達し、検査時の痛みを感じやすい傾向があります。
検査時の痛みを避けたい方は、生理後に受診したほうが無難でしょう。
撮影時に身体の力を抜く
身体に力が入ったり緊張していたりすると、身体がこわばり痛みを感じやすくなる場合があります。
深呼吸をして全身の力を抜き、なるべく楽しいことを考えてリラックスした状態で臨みましょう。
検診時にまっすぐ立つ
検診時の立ち姿勢が悪いと、乳房を圧迫する際に、部分的に大きな負荷がかかり痛みが増すことがあります。
検査の際は、圧迫板に対して乳房の位置を水平に保つようにしましょう。
乳がん検診(マンモグラフィ)が痛い場合の対処法
マンモグラフィの痛みにどうしても耐えられない場合、乳がん検診を受ける方法はないのでしょうか。
乳がん検診の検査方法には、マンモグラフィ以外にも次のようなものがあります。
- 乳腺超音波(エコー)検査
- 無痛MRI乳がん検診
マンモグラフィーによる痛みが理由で乳がん検診の受診を控えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
乳腺超音波(エコー)検査を受ける
「乳腺超音波(エコー)検査」とは、乳房に検査用のゼリーを塗り、超音波を発する機械を当てることで反射した信号を画像にする検査です。
しこり内部や表面の状態の画像から、がんの良性・悪性の識別ができます。
乳房の圧迫による痛みがなく、検査時にX線を使用しないことから医療被ばくの心配もないため、安心して受けられるでしょう。
とくに40歳未満の方は乳腺密度が高く、マンモグラフィでは乳腺異常がわかりにくい傾向があるため、乳腺超音波検査のほうがおすすめできる場合があります。
ただし、乳腺超音波検査は、乳がんの前段階である石灰化の発見には向いていません。
そのため、検査時の痛みが心配な方は乳腺超音波検査をベースに受けつつ、時々はマンモグラフィも受けるような方法が安心でしょう。
無痛MRI乳がん検診を受ける
「無痛MRI乳がん検診」とは、MRIを用いた、痛みがまったくない乳がん検査のことをいいます。
乳房を板で挟んだり圧迫したりしないので、身体的負担がほぼありません。
検査着やTシャツを着たまま検査ができるため胸を見られる心配がなく、X線を使用しないため放射線被ばくもありません。
ただし、無痛MRI乳がん検診は国の指針で定められた検査方法ではないため、基本的に保険適用されたり補助金が出たりせず、自費診療でのみ受けられます。
無痛MRI乳がん検診の費用の相場は、大体20,000円ほどです(※10)。
乳がん検診に関してよくある質問
ここでは、乳がん検診に関してよくある質問について回答します。
- マンモグラフィ検査を受けられない場合があるのか
- 乳がんを自身でチェックする方法を知りたい
それぞれの質問に対する回答について詳しく解説します。
マンモグラフィ検査を受けられない場合がある?
次のような方は、マンモグラフィ検査を受けられない場合があります。
- 妊娠中もしくは妊娠している可能性のある方
- 授乳中の方
- 豊胸手術を受けた方
- 1年以内に胸部付近の手術をされた方
- ペースメーカーやカテーテルなど、撮影時に破損の恐れがある医療器具を装着している方
妊娠中は胎児が被ばくしたり、女性ホルモンによる乳腺の発達により病変が見つかりにくかったりする可能性があります。
授乳中においても、乳腺が発達した状態であるためマンモグラフィはおすすめできません。
断乳後、6か月が経過してから受けるとよいでしょう(※11)。
また、シリコンバッグを挿入するような豊胸術を受けた方の場合、検査時の胸の圧迫でシリコンバッグが破裂したり、位置が大きくずれたりする可能性があります。
乳がんの切除術をはじめとする、胸部の手術歴がある方も注意が必要です。
手術によって組織が硬くなることがあり、マンモグラフィ画像における病変の発見が難しくなる場合があるためです。
乳がんを自身でチェックする方法は?
乳がんのセルフチェックは、お風呂場で手に石けんをつけてすべる状態でおこないます。
お風呂場に鏡がある場合は、目でも確認しながらおこないましょう。
手順は次のとおりです(※12)。
- 目で見て確認する:胸のくぼみやふくらみ、ただれ、変色、ひきつれなどがないか確認しましょう。
- 手で触って確認する:乳房の内側、外側、わきの下、乳頭にわけて確認しましょう。4本の指で「の」の字を書くように、指先で軽くなでるようにしこりの有無を 確認してみてください。
- つまんで確認する:指で乳頭の根元を軽くつまみ、血が混じったような分泌物が出ないか調べましょう。
異変があればすぐ気づけるように、1か月に一度のセルフチェックを習慣化できるとよいでしょう。
セルフチェックをおこなう時期は覚えやすいように、月経終了後や誕生日、記念日などへの設定をおすすめします。
まとめ
乳がんは早期発見により完治しやすい特徴がありますが、がんの初期には自覚症状がほぼないため、初期段階で見つけるためには定期的な検診の受診が重要です。
乳がん検診の主な検査方法であるマンモグラフィでは、乳房を板で挟んで圧迫する必要があるため、個人差はあるものの痛みを感じる場合があります。
痛みを軽減するためには身体の力を抜いてリラックスしたり、乳房が張りやすい生理前を避けたりする方法もあります。
痛みの心配がない検査を受けたい方には、乳腺超音波検査や無痛MRI乳がん検診がおすすめです。
ただし、マンモグラフィでしかわからないような病変もあるため、まったく受けないのではなく、痛みを軽減する工夫を試しながら定期的に受けることが望ましいでしょう。
<参考>
(※1):日野市 乳がん検診
(※2):3.罹患数(新たに乳がんになった人の数)と死亡数のデータ|1.乳房の構造と乳がん|公益財団法人 日本対がん協会
(※3):乳がん検診|日本のがん検診データ|知っておきたいがん検診
(※4):東京都福祉保険局 国が推奨する乳がん検診の開始年齢が何歳から?
(※5):乳がん検診|がん対策推進 企業アクション
(※6):被ばくによる危険は?|マンモグラフィQ&A|東邦大学 医療センター 大橋病院 放射線部
(※7):久留米総合病院 健康管理センター 乳がん自費健診
(※8):埼玉県 日高市 乳がん検診を受けましょう
(※9):平成28年度 職域におけるがん検診実施状況調査 結果報告
(※10):費用|無痛 MRI 乳がん検診|地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都大久保病院
(※11):授乳中の方|乳がん検診の注意点|乳がん検診|公益財団法人東京都予防医学協会
(※12):HOW TO セルフチェック|J.POSH 乳がんピンクリボン運動